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盛岡地方裁判所 平成9年(行ウ)6号 判決 1998年1月30日

岩手県一関市八幡町三番二六号

原告

一関小売酒販組合

右代表者理事

佐藤研

右訴訟代理人弁護士

荒井純哉

岩手県一関市田村町七―一七

被告

一関税務署長 高橋秋男

右指定代理人

黒津英明

板倉不二夫

高橋一史

菅原学

小笠原修

小松豊

加賀谷清孝

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

(請求の趣旨)

1 被告が、平成八年三月一五日付でした岩手県一関市舞川字根岸七番地二吉家テイに対する岩手県一関市都市計画事業町浦地区土地区画整理事業一〇街区一番地一、一番地二、一番地三への酒類販売場移転許可処分を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(本案前の答弁)

主文と同旨

(請求の趣旨に対する答弁)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告

(請求原因)

1 原告は、「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」(昭和二八年法律第七号。以下「組合法」という。)に基づき、一関税務署の管轄区域を地区として設立された組合である。

2 被告は、平成八年三月一五日付で、岩手県一関市舞川字根岸七番地二吉家テイに対し、岩手県一関市都市計画事業町浦地区土地区画整理事業一〇街区一番地一、一番地二、一番地三への酒類販売場移転許可処分(以下、右許可処分を「本件処分」、移転前の販売場を「従前販売場」、移転先の販売場を「本件販売場」とそれぞれいう。)を行った。

3 本件処分は、以下の理由により違法である。

(一) 酒類販売場の移転が許可されるためには、<1>申請人が酒類販売業を営んでおり、移転先でも実際に酒類販売を継続して行うこと及び<2>売場面積が移転前と移転後とで大きな相異がないこと(酒税法一六条、一〇条一一号、酒類の販売業免許の取扱について(平成元年六月一〇日付間酒三―二九五)の別冊である酒類販売業免許取扱要領参照)が必要である。

(二) 従前販売場において酒類小売業の免許を有していた訴外吉家テイ(以下「訴外吉家」という。)は、平成六年二月ころには営業を休止している状態であり、そのころから、同人に代わって、株式会社マルニ(以下「訴外マルニ」という。)が経営の実権を握って同所で酒類小売業を営んでおり、本件販売場での経営主体も訴外マルニである。

(三) 従前販売場の売場面積は、約九平方メートル程度であったが、本件販売場の売場面積は、売場、商品陳列棚、商品置場及び倉庫部分をあわせて三〇〇平方メートルを超える。

4 原告は、本件処分につき、平成八年五月一〇日、仙台国税局長に対し、審査請求を行ったが、仙台国税局長は、平成九年三月一八日、同審査請求を却下する裁決を行い、同裁決書は、同月二〇日、原告に到達した。

(原告適格)

1(一) 組合法に基づく酒類業組合(酒造組合及び酒販組合)の存立目的は、業界内での酒類の需給の自主的調整を図り、もって酒税の安定徴収に資するとともに、構成員である組合員の福祉を増進し、その地位を保護することにあるから、構成員である組合員の福祉が害され、その地位が脅かされる事態が生じた場合には、酒類業組合はこれを除去すべく法的手段をとることができる。

(二) 酒税法における酒類販売業の免許制は、酒類販売業者の濫立による過当競争を防止して酒類の需要調整を行い、酒類販売業者の経営を健全ならしめことによって酒類製造者に対する酒類代金の支払不能等の状態を防止し、もって、酒税の保全を図るためのものであり、右免許制には、酒類販売業者を濫立による経営悪化から守るという目的をも有しているのであるから、酒類業免許制度の適切な運用によって保護されるべき酒類販売業者の営業上の利益は、法によって保護された利益である。

(三) 本件処分によって、訴外マルニが酒類の販売を行っていることにより、原告の組合員らは酒類の販売量が大幅に減少するなど経済的不利益を受けており、右不利益を除去するためには本件処分を取り消す必要がある。

2 酒税法及び組合法によれば、酒類業組合は、行政機関と密接な関係を有し、行政機関に協力して酒税の保全及び共同の利益の増進を図る地位にあって公共的性質を有しているから、原告には、一関税務署と協力して酒税法の目的を達成する外、もし、一関税務署が酒税法に違反する結果となる処分等に及んだ場合には、これを是正すべき権利と義務があり、これは、原告に付与された法律上のものである。

二  被告

(本案前の主張)

1(一) 酒税法における酒類販売業者の免許制度に関する諸規定は、酒税の確実な徴収とその税負担の消費者への円滑な転嫁を確保しようとするものであり、既存の酒類販売業者を保護する趣旨を含むものではない。

(二) 組合法が、酒類業者の組織化を容認し、かつ、酒類業組合の事業として種々の規制を組合員に対して行うことを認めているのは、国の酒税確保という財政目的の達成の前提として、酒類業者自らの手で酒類の取引の安定を図り、もって酒類業界全体の安定を図らしめることを目的としているのであって、組合の構成員である小売店等の地位の保護を目的とするものではない。酒類販売業者の営業上の利益は、あくまで個々の事業者の責任において個別の企業努力によって達成されるべきものである。

(三) したがって、原告が、ある酒類販売業者の販売場の移転が許可されないことによって、仮に何らかの利益を得ることがあるとしても、それは酒税の徴収確保という財政目的から設けられた酒類販売業免許制度による反射的利益ないし事実上の利益に過ぎず、法律上保護された利益ということはできない。

2(一) 組合法は、酒税確保のため、主として酒類の需給面、取引面から必要な措置を直接、間接に行うもので、その措置の結果、酒類の取引の安定にも機能するところから、第一次的にその調整措置を同業者団体たる酒類業組合の自主的な活動に委ねたものであって、その本質、独自性はあくまで酒税の保全ないしは確保にあり、組合法が目的に掲げている「酒類業界の安定」や「酒類の取引の安全」は、酒税保全のための手段及び結果に過ぎない。

(二) また、組合法の全規定をみても、組合法に基づいて設立された酒類業組合が、税務署長が行う免許に関する処分はもとより、法に基づくいかなる処分に対しても意見を述べたり、承諾を与えるなどして関与するような規定はない。

(三) よって、原告が、組合法によって本件処分に関与できる機能を与えられているとはいえない。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  証拠(甲二四、二五)及び弁論の全趣旨によれば、第二、一(請求原因)1、同2及び同4の事実が認められる。

二  本件処分の名宛人は訴外吉家であるところ、右処分の名宛人ではない第三者たる原告がその取消しを求めているので、以下原告適格につき判断する。

1  処分取消しの訴えを提起できるのは、当該処分の取消しを求めるについて法律上の利益を有する者に限られており(行政事件訴訟法九条)、右にいう「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解される。そして、その判断にあたっては、当該処分を定めた行政法規の趣旨・目的、当該行政法を考慮したうえ、右行政法規が当該人の具体的利益をも保護すべきものとする趣旨を含むものであるか否かによると解するのが相当である。

2  酒税法によれば、酒類には酒税を課するものとし(同法一条)、酒類等の製造及び酒類の販売について許可制を採用した上、(同法七条ないし一〇条)、酒類等の製造場又は販売場の移転についても許可制を採用し(同法一六条)、右移転の許可申請があった場合には、「正当な理由がないのに取締上不適当と認められる場所に製造場又は販売場を設けようとする場合」又は「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため」酒類等の製造場又は販売場の移転の許可を与えるのが適当でないと認められる場合には、税務署長は許可を与えないことができる(同法一六条二項、一〇条九号、一一号)ことなど規定している。これらの規定を検討すると、酒税法における免許制度は、酒類製造者に納税義務を課し、酒類販売業者を介しての代金の回収を通じ、その税負担を最終的な担税者である消費者に転嫁する仕組みをとり、その税の確実な徴収と税負担の消費者への円滑な転嫁を確保する必要という専ら財政目的の見地から採用されたものと解されるのであり、酒類等の製造あるいは販売の許可並びに製造場あるいは販売場の移転許可の制度等が、近隣地域の酒類製造者ないしは販売業者の営業の安定あるいは酒類業組合の事業の安定までをも目的としたものとは認め難い。

したがって、酒税法一六条に定める販売場の移転の不許可処分がなされて近隣の酒類販売業者あるいは酒類業組合等が利益を得るところがあるとしても、それはたまたま生じる事実上の利益に過ぎないものと解するのが相当である。

3  組合法によれば、酒類販売業者は、酒税の保全に協力し、及び共同の利益を増進するために酒販組合を組織することができ(同法三条)、組合員が提出する申告書等の取りまとめ(同法四二条一号)、国の発する通知の組合員への伝達(同二号)、その他国の行う酒税の保全に関する措置に対する協力(同三号)、酒税法違反の自発的予防(同四号)、組合員の販売する酒類の販売の競争が正常の程度をこえて行われていることにより、酒類の取引の円滑な運行が阻害され、組合員の酒類販売業の経営が不健全となっており、又はなるおそれがあるため、酒税の納付が困難となり、又はなるおそれがあると認められる場合において、組合員が販売するために購入する酒類の購入数量、購入価格又は購入方法に関する規制及び組合員が販売する酒類の販売数量、販売価格又は販売方法に関する規制(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律(平成九年法律第九六号)による改正前の組合法四二条五号ハ、ニ)などの事業を行うことができる等定められている。これらの規定を検討すると、組合法は、酒販組合の行う事業が、その構成員たる組合員の共同の利益として行われると同時に酒税の徴収、確保につながることから、その限りにおいて、酒販組合に団体内部における需給調整等の自主的な規制措置の権能を与えたというに過ぎず、それ以上に、行政機関に協力するというような公益的な権能を与えたとは解されないし、また、私人が行政機関の違法な措置を是正するという極めて特殊な権能を、組合法が酒販組合に付与したとの趣旨を同法から読みとることもできない。

したがって、酒税法に規定する処分についての規定は、組合法があるからといって、原告などの酒販組合の具体的利益を保護するものであると解することはできず、原告には、右処分の取消しを求めるについて法律上の利益があるとは認められない。

4  一件記録を検討しても、他に本件処分の取消しを求めるにつき、原告に法律上の利益があることを窺わせるに足りる証拠はない。

三  以上によれば、原告は、本件処分の取消しを求めるについて法律上の利益を欠くものであり原告適格を有しない。

四  よって、原告の本件訴えは訴訟要件を欠く不適法なものであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成九年一二月一九日)

(裁判長裁判官 来栖勲 裁判官 神山千之 裁判官 中村恭)

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